長い歴史の中で多くの旅人が歩いてきた東海道。
東京の日本橋から京都の三条大橋を結ぶ道で、今でも宿場町の趣を残している場所も少なくありません。
今回私が訪れたのは静岡県にある丸子(まりこ)宿。東海道五十三次の20番目の宿場で、鞠子宿とも呼ばれています。
丸子宿の名物はなんといってもとろろ汁。江戸時代の文献にも何度も登場する、長い歴史の中でも愛され続けてきた名物料理をご紹介します。
弥次さん喜多さん、松尾芭蕉の句にも登場する丸子宿のとろろ汁
静岡県静岡市にある丸子宿は小さな宿場で、関ヶ原の戦いの翌年の慶長6年(1601年)に宿場町となりました。
丁子屋が誕生したのはそれより少し前の慶長元年(1596年)。戦国時代の最中、当初はお茶屋として開業したと言われています。
歴史を感じさせる建物は当時から建っているものではなく、昭和45年(1970年)に1kmほど西にある大鑪(おおだたら)地区から移築された古民家です。一つの家のように見える建物ですが、実は江戸時代〜昭和までに使われていたいつかの古民家の集合体なのだそうです。
丸子宿は小さい宿場町ながらも、名物のとろろ汁は有名で数々の作品に登場しています。十返舎一九の『東海道中膝栗毛』や歌川広重の『東海道五拾三次』、松尾芭蕉の江戸に旅立つ弟子に向けたはなむけの句にも登場し、当時から名物として愛されてきたことが分かります。
丁子屋に到着して驚くのは、やはりその外観です。積み重ねてきた歴史を感じずにはいられない立派な茅葺き屋根。提灯や大きな石で作られた丁子屋の看板にも趣があり、丁子屋の店内に入る前から気分が盛り上がります。
店頭で受付をしてから呼ばれるまでに少し時間があったので、丁子屋の前にある道路を渡ってみます。この道路がまさに東海道で、近くには本陣跡も残されています。東海道を渡った丸子川沿いには宿場町を案内する看板が立てられ、観光気分も高まります。
長い歴史を感じさせる丁子屋の店内
丁子屋には座敷、テーブル席、団体部屋、個室などいくつものお部屋が用意されています。
「広重さんの部屋」「芭蕉さんの部屋」「一九さんの部屋」「宗長さんの部屋」「弥次さんの部屋」「喜多さんの部屋(キタイリ)」「喜多さんの部屋(キタオク)」「徳川さんの間」「今川さんの部屋」とそれぞれ縁のある人物の名が付けられ、それぞれ異なった雰囲気を楽しむことができます。
今回案内された「広重さんの部屋」は、64畳の大広間。天井が高いテーブル席で開放的な空間です。窓は開けられ、テーブルとテーブルの間隔も十分広くゆったりとしているので感染症対策も万全です。
「広重さんの部屋」の長押部分には、復刻版の歌川広重の浮世絵「東海道五十三次」が日本橋から順に並べて飾られています。当時の街道の様子が書かれた浮世絵が揃っているので、眺めているだけでも楽しめます。
静岡在来品種の自然薯を使った丁子屋のとろろ汁
丁子屋の名物・とろろ汁には定食が用意されています。定番はとろろ汁・麦めし・味噌汁・香物・薬味がセットになった「丸子」です。
この「丸子」にむかごの揚げ団子・むかごの和え物など珍味二種・甘味を付けた「本陣」、「丸子」に揚げとろ・むかごの和え物など珍味二種・甘味・フルーツを付けた「府中」もあります。
お子さまには白米・エビフライ自然薯を使った鶏団子・玉子焼き・自然薯入りポテトサラダ・メロンの「お子様ぷれ~と」も用意されています。
悩んだけれどここは定番の「丸子」を注文。10分ほどでテーブルにやって来ました。
定食のご飯はおかわり自由。それぞれご飯は1杯目はお茶碗で出ますが、一緒にご飯の入ったおひつも出されます。おひつのご飯がなくなってしまっても、さらにおかわりすることもできます。
というのも、とろろ汁がたっぷりなのでとてもお茶碗1杯のごはんでは食べきれません。とろろ汁がメインなので当たり前なのですが、しっかりとおなかが空いた状態で行くことをおすすめします。
丁子屋がおすすめするとろろ汁のおいしい食べ方は、米粒が泳ぐくらいたっぷりととろろ汁をかけること。そして卵をとく時のように、空気をよーく混ぜ込むように泡立てるのがポイントです。お好みの薬味をパラッと入れたら、ザーザー音を立て流し込むように食べるのが一番おいしい食べ方とのことです。
ここは行儀が悪い、とは思わずに丁子屋おすすめの食べ方で食べてみます。口にとろろ汁を入れた瞬間、野性味あふれるとろろの香りが鼻を抜けていきます。そしてふわっとまろやかなとろろ汁はしっかりと粘り気はあるのに、食べごたえはサラッと軽い口あたり。
やさしいお味噌の風味も加わり、これまで食べたとろろ汁とは違います。さすが江戸時代から親しまれているだけあって、これは疲れた体にも効きそうです。これを楽しみに東海道を旅する方も多かったのかな、なんて思いを馳せたくなるとろろ汁です。
なかなか旅行にも出かけられないもどかしさ。旅の写真を見返したり、行ってみたいところのガイドブックを読んでみたり。おいしかったものや気になっていたものを取り寄せてみたり。おうちにいながらお出かけ気分を味わうのも、ここまで長くなるとやはり物足りなさを感じてしまうもの。また気軽に旅に出られる日が待ち遠しいです。
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