キタアカリ、レッドムーン、はるか、マチルダ。これらすべてジャガイモの種類です。この時期になると北海道の母から届くジャガイモ。毎年顔ぶれも変わっていて、種類の多さには驚くばかりです。でもどう使うかと言えば、肉じゃが、コロッケ、ポテトサラダ…。使い分けには程遠く、なんとももったいない限りです。そこで、今回、調べてみました。ジャガイモの品種にあった食べ方を。
北海道産のジャガイモ、品種は約60種類
じゃが芋の収穫量で全国トップを誇るのが北海道。その数は2016年産で171万5千トンと全国の8割を占めます。北海道産のジャガイモの収穫時期は夏から秋。春先にでる新じゃがは主に長崎や鹿児島などで栽培されたもので、北海道産のジャガイモの旬は10月~2月と、まさに今が旬なんです。
北海道で作られるジャガイモの種類はおよそ60種類。ただ、これらすべてがスーパーに並ぶわけではなく、わたしたちが買う「生食用」と言われるものは、このうち30種類くらい。残りはポテトチップスやフライドポテト、コロッケ、サラダなどの加工食品用として栽培される「加工用」、麺や片栗粉などの製造に使われる「でん粉用」になります。加工食品用は甘さを抑えた品種、でん粉用はデンプンの含量が多いものと、用途によって育成される品種の特徴も異なります。
主流派は男爵、メークイン、きたあかり
男爵やメークインといえば、ジャガイモの王道ですが、この2つの品種は明治維新後のいわゆるジャガイモの導入時期からあるもの。北海道開拓民用の食料として普及したもので、いまでも生食用の作付面積で上位1,2位を占めます。次いで広がっているのはキタアカリ。男爵を母にもち、寄生虫への耐性を持たせた品種です。スーパーで見ることも多く、普段使いのジャガイモの一員になってきていますよね。生産量では上位に及びませんが、人気があるのはインカのめざめ。栗のような風味と甘みが特徴のインカのめざめは、「良食味品種」として知られています。北海道生まれではありますが、全国各地で栽培されてきています。
煮崩れの見極めは品種とデンプンの量
多くの品種を目にすると、どう調理していいのか迷ってしまいます。そもそも何が違うのか。調べてみると調理に関するポイントは主に2つ。1つは煮崩れです。
煮崩れしやすい男爵と煮崩れしにくいメークイン。ジャガイモの使い分けというと、こう区分する人も多いですよね。ジャガイモの煮崩れを左右する要素は品種がもつ特性とでん粉の量です。煮崩れがなぜ起きるのかといえば、ジャガイモの主要成分となるでん粉が加熱により吸水、膨らみ、細胞同士がはがれてしまうからです。でん粉の量が多ければ、その分膨らみやすくなります。一方で守る力が強ければ煮崩れはしません。それが品種の特性と言われる部分。細胞が小さければ、その分細胞同士が接着する表面積が大きくなり、接着力は強くなります。細胞壁が厚い、細胞間の接着剤自体が強いといった特性がある品種も煮崩れしにくいといえます。
代表的な品種でみると、でん粉の量が多く、煮崩れしやすいのは、男爵、キタアカリ。でん粉の量が少なく煮崩れしにくいのはメークイン。でん粉の量は多いけれども煮崩れしにくいのはインカのめざめです。インカのめざめの場合、細胞が小さいことが煮崩れしにくい要因となっていると推察されています。同じ品種の中でも、でん粉の量は違うので、煮崩れしにくいとされる品種でも、でん粉の量によっては煮崩れることもあるんです。
家庭で見極めたい場合には、食塩水にジャガイモを浮かべる方法があります。夏休みの自由研究のようになってしまいますが、1ℓの水に120gの食塩をとかし、ジャガイモを入れます。浮いたものはでん粉の量が少ないもの、沈んだものはでん粉の量が多いものとなります。あくまでも品種の特性が優先されるので、一概には言えませんが、同じ品種の中でみると、でん粉の量が多いものの方が、煮崩れる可能性が高いといえます。
ジャガイモの甘さを楽しむならチルド室で冷温保存
もう一つのポイントは甘さ。揚げ物にする際、糖が多いと焦げ付きやすくなるからです。ジャガイモに含まれるでん粉は冷温で保存することにより一部が糖に変わります。特にメークイン、男爵、キタアカリ、インカのめざめは糖に変わりやすい品種といえます。ジャガイモを揚げるときには140℃と低い温度の油から入れ、徐々に油の温度を揚げ180℃で取り出す、低温で揚げてから一度取り出し、二度目は高温で揚げるといった方法があります。いずれも一定程度時間をかけることで、でん粉が糊化し、おいしく食べられるようになります。糖が多いジャガイモは変色したり、すぐに焦げてしまったりするため、糖の少ないジャガイモが揚げ物にはあっているといえます。
甘さを楽しみたい場合は、冷温保存を活用するというのもジャガイモを楽しむ一つの方法です。新聞紙でくるみ、ぬらしたキッチンペーパーで包んだものをビニル袋に入れ、チルド室で保存すると甘味がぐっと増します。ただし、貯蔵期間は2週間程度を目安にしましょう。
ほこほこ?粘質?4種類で試してみました
実際にどう違うのでしょうか。以上の点を踏まえながら、今回届いた4種類のジャガイモを調理してみました。左から順にキタアカリ、レッドムーン、はるか、キタアカリ、マチルダです。上が揚げたもの、下が皮ごとゆでたものです。キタアカリは男爵を母にもつ品種。一目見てわかるように、ゆでただけで皮の近くの形が崩れています。男爵系に分けられます。レッドムーン、はるか、マチルダは煮崩れしにくい、メークイン系に属するタイプで、やや粘質の食感。マチルダはデンプン価がやや高いので、中心部に粉っぽさもみられます。食べた印象では、キタアカリ、マチルダはうまみが濃く、次いではるか。レッドムーンはやや水っぽくあっさりとした感じです。ほこほこ感とねっとりとした食感が程よい感じに調和しているのはマチルダです。
揚げ物に関しては、いずれも皮目付近が濃く変色してしまっています。レッドムーンについては、皮のきれいな赤色がぬけてしまっているので、少しもったいない感じです。
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粉質なキタアカリは、やはりコロッケや粉吹き芋に。煮崩れしにくく、やや粘質なはるかやマチルダはシチューやグラタン、カレーなど、形を残したいものに向いています。特にはるかはサラダ用に開発されたものなので、千切りにし、軽くゆで、しゃきしゃきとした食感を楽しむようなサラダにもむいています。レッドムーンは水っぽさもあるので、揚げものには不向き。赤い皮の色を生かし、ガレットにしたり、炒め物にするのにむいています。
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デンプン価(でん粉量)煮崩れ食味
男爵 | 15% | 中程度 | やや粉質 |
メークイン | 男爵より少 | 少 | 粘質 |
キタアカリ | 16~17% | ※中程度 | やや粉質 |
はるか | 男爵よりやや低 | ※少 | やや粘質 |
マチルダ | 中~やや高 | 少 | やや粘質 |
レッドムーン | 低 | 少 | 粘質 |
参考:ジャガイモ事典(編集・発行:財団法人いも類振興会)
※印は今回の調理による結果で、参考文献には記載はありません