「まる!」のCMでおなじみの白鶴酒造は、日本一の日本酒生産量を誇る兵庫県灘五郷で、280年以上も日本酒を造り続けています。その伝統は、酒造りのみならず、日本酒文化の普及にも及び、2007年から東京のビルの屋上で米作りを始めた「白鶴銀座天空農園」は、都市と伝統文化の融合を体現する場として知られています。今回は、白鶴銀座天空農園にて、18回目となる田植えの取材を行いました。
日本一の酒どころ灘五郷で生まれた「白鶴酒造」
普段日本酒をあまり飲まない方でも、兵庫県の灘五郷(なだごごう)が酒処であることをご存じの方も多いのではないでしょうか。
灘五郷は兵庫県神戸市灘区から西宮市の沿岸部に位置し、神戸市の「西郷」、「御影郷」「魚崎郷」、西宮市の「西宮郷」「今津郷」の5つの地域からなり、白鶴酒造は「御影郷」で酒造りを行っています。
灘五郷が日本酒の一大生産地になったのは、冬に吹く「六甲おろし」による寒づくり、鉄分が少なくミネラル豊富な酒造りに非常に適した水、良質な播州米、丹波杜氏の優れた酒造技術、高度な精米を可能にした水車などが挙げられます。
また、海運が発達しており、樽廻船と呼ばれる大型の船で日本酒を大量に輸送することができたので、灘五郷で作られた日本酒は、大都市江戸に簡単に運ぶことができました。
「まるー!」のTVCMでおなじみの「まる」が広く知られていますが、プレミアムなシーンにも合う「天空」から日常的に楽しめる「上撰白鶴」まで幅広いラインナップの日本酒を造っています。また、梅酒や料理酒、みりん、日本酒コスメまで多様な商品展開をおこなっています。
お米へのこだわりから生まれた自社開発酒米「白鶴錦」
「酒米の王者」と言われ、酒米の中でも最も優れた品種として知られている兵庫県産「山田錦」。白鶴酒造で使用する「山田錦」はすべて兵庫県産で、「特撰 山田錦」や「杜氏鑑」など多くの商品に使われています。
白鶴酒造では「山田錦に勝るとも劣らない酒米を生み出す」という信念の元、1995年に新しい酒米の開発をスタートさせました。「山田錦」の兄弟品種を作るというアプローチで開発を進め、選抜固定の栽培を繰り返します。
開発開始から8年目の2003年、ついに山田錦にも劣らない「白鶴錦(はくつるにしき)」が誕生しました。2007年に「白鶴錦」として品種登録が受理され、2012年からは「十四代」で知られる高木酒造など他社にも供給を開始しています。
✔️山田錦と比較した白鶴錦の特徴
- ・粒・心白が大きくなりやすい
- ・稲の背丈が低く倒れにくい
- ・お米を磨く際に割れにくい
- ・できあがったお酒がすっきりした味わい
白鶴酒造東京支社には酒米と背比べできるパネルがあり、白鶴錦の方が10cmほど背丈が低いのが分かります。
銀座から日本酒文化の情報を発信!「白鶴銀座天空農園」
屋上緑化や壁面緑化が盛んな銀座では、ミツバチを育てて蜂蜜を作ったり、屋上に農園をつくったりする企業も少なくありません。白鶴酒造が白鶴銀座天空農園をスタートさせたのは2007年。
「銀座から日本酒文化の情報発信をしたい」という思いから「日本酒の命である米を栽培してはどうか」というアイデアが生まれ、東京支社の屋上で品種登録されたばかりの白鶴錦の栽培が始まりました。
夜でも明るい銀座では、米作りは難しいと言われていましたが、まずはプランター100基から始めた栽培は成功しました。2008年にはより大規模になり、広さ約110平方メートルの屋上田圃が完成しました。
翌年の2009年には近隣の小学生が田植えや稲刈りをする食育体験もスタート。2013年からは、白鶴銀座天空農園で収穫した白鶴錦のみで仕込んだお酒を毎年銀座の一部店舗にて本数限定で販売しています。
白鶴銀座天空農園は大小合わせて7区画、約1700株の稲を栽培しています。2023年度の収穫量は籾付きで46.5kgでしたが、今年は50kg前後を目指しています。
現在の天空農園プロジェクトチームは東京支社営業サポートグループのメンバー8名。総務や営業事務など日々の業務と並行しながら、西武造園の協力を得て運営されています。
プロジェクトリーダー山田亜由美さんによると、一般的な稲作とは大きく環境が異なることから、苦労することも少なくないそうです。
一般的な田んぼの稲作では、約60cmの深さが必要だと言われていますが、重さ制限がある屋上での栽培では深い部分でも約15cmしかありません。そのため必要な栄養を行きわたらせるための工夫が必要になります。
また、強い直射日光が当たるビル屋上では、夏場は水温が40℃を超えることも少なくありません。一度水を抜いて水温が上がらないよう水温管理も大変です。
稲は風にも弱いので台風などの際はロープとネットで風よけを設置したりするなど、予想内のトラブルから全く予期しないトラブルまで試行錯誤しながらの対策が求められます。
2024年度の白鶴銀座天空農園の田植えがスタート!
2024年5月24日(金)、白鶴社員の方々を中心に特別ゲストの2024Miss SAKE 東京代表の高島 桃子さん、大阪代表の南 侑里さんなど約40人が参加して田植えが行われました。
西武造園の方によると、この日の白鶴銀座天空農園の水温は23℃で、人にとっても、稲にとってもベストな温度だそうです。プロジェクトチームからスライドを使って田植えの仕方を教えてもらった後に屋上へ移動しました。
横一列に並び、ロープの位置に従って苗を植えたら、後ずさりしながら進んで行きます。皆さん和気あいあいとした雰囲気ながらも、転んで尻もちをつくのだけは避けたいという緊張感も漂っています。向かい側のホテルからは、宿泊客の方々が興味津々な様子で、田植えの様子を見守っていました。
実家で田植えを経験しているという社員の方は手さばきも軽やかに進めていました。2024Miss SAKEのお2人は、明るく華やかな笑顔と田植えへの真摯な姿勢で雰囲気を盛りあげていました。
途中でメンバーを入れ替えたりしながら、無事に1時間弱で田植えは終了。田植え中はほどよく曇っていた空でしたが、終わる頃には晴れ間が広がり、汗ばむ陽気になっていました。
2023年度に白鶴銀座天空農園で収穫された白鶴錦100%で仕込んだ純米大吟醸酒「翔雲」は、6月7日(金)に銀座エリア一部店舗にて40本限定販売となります。2023年度の白鶴錦は、11月の穀物検査でこれまでにない高評価を受けました。
2024年度も2023年度に負けない品質の白鶴錦を作りたいとプロジェクトチームも意欲をのぞかせていました。
最後は「まる」のポーズで記念撮影!
これから梅雨もやって来ますが、白鶴銀座天空農園の白鶴錦がすくすく育っていくのが楽しみです。
白鶴銀座天空農園での稲の生育状況は、公式ホームページ、instagram、Facebookで見ることができます。