人間の知恵ってすごいな。そう思うことがあります。納豆、鮒ずし、しょっつる。最初は、偶然の産物だったのかもしれない。それでも、それが長い年月をかけ、「食」として確立され、伝えられ、そしてその土地になくてはならない存在となっている。本当に、ご先祖様の知恵には、頭が下がります。今回紹介するものもそんな人間の知恵を感じるものです。塩をまったく使わない漬物であり、ヨーグルトと同じくらいの量の乳酸菌が含まれるといわれる発酵食品。そう、長野県の御嶽山の麓、木曽地域に古くから伝わる「すんき」です。
山間地域、受け継がれた知恵
「すんき」は、木曽地方に育つ赤蕪の葉と茎を乳酸発酵させて作る、無塩の漬物です。木曽は太平洋からも日本海からも離れた山間地域。塩を運ぶためには、船で川をのぼり、さらに牛や馬を使わなくてはならず、貴重なものでした。塩を使わず、いかに保存食を作るのか。そんな知恵が、すんきを生み出したのではないかと言われています。
10月下旬から12月にかけ、赤蕪の葉の収穫が始まると、各家庭で、すんきの仕込みが始まります。作り方はごくごくシンプル。まず葉と茎をよく洗い、2~3分湯がきます。乳酸菌の種は、前年に漬けたすんきを乾燥させたもの。ゆであがった葉、茎と種を交互に重ね、重しをしたら、作業は終わりです。作り方は家庭や地域によっても異なるようですが、収穫後すぐに漬けるのではなく、一日乾燥させた赤蕪の葉を使う家庭も多いといいます。赤蕪の葉の水分を減らすことにより、葉に含まれる糖分が凝縮し、乳酸発酵が進みやすくなるというのがその理由。食べごろとされる時期も、家庭によって異なりますが、「漬けてから1週間たたないと本当の味ではない」という人もいるといいます。
独特の酸味、くせになる味
なんだか少しぼんやりした味。購入したすんきの袋を開け、そのままで食べたときに受けた印象です。もっと酸味がきついのかなと思っていたので、ちょっと拍子抜けでした。でも、少し手を加え、食べたときの印象はまったく違ったものでした。ぐっと味が変わるんです。その一つが炒めること。水気が抜け、すっぱさと独特のうまみが際立ちます。醤油をちょっとたらし、カツオ節をかけると、さらにうまみがひきたち、お酒のあてにはもってこい。炒飯の具としても使えます。ポイントはアミノ酸と合わせること、と地元の人は言います。卵と合わせ、卵焼きや茶碗蒸しに入れる人もいるそうです。古くからの食べ方としては、みそ汁に入れるのが一般的。温かいそばの具としても使われています。さっぱりと口当たりになるだけでなく、体もあたたまるんです。
すんきで地域活性
木曽町では、すんきを地域活性化に生かそうと、「木曽町まち・ひと・しごと創生総合戦略」で、「すんき」により農業の六次産業化を進めることを掲げました。原材料である蕪菜の増産、加工段階における生産効率化を進めることで、販売を伸ばすとともに、雇用創出につなげようというものです。蕪菜のカットや洗浄、真空パック用の機械を導入するための予算措置も講じ、加工所の生産体制を整備。7年前に比べると、約3倍となる40トンを生産できる体制が整ったといいます。同時に進めているのが、伝統を守る取り組みです。調味料を加えた製品や蕪の葉以外を使った製品も売られるようになってきたためです。木曽町では国の地理的表示保障制度(GI)に申請し、食文化として受け継がれてきた味を、変えることなく、伝えようとしています。
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