進化する食卓

冬が旬!京都を代表する漬物「千枚漬」と植物性乳酸菌が味の決め手「すぐき漬け」

豊かな地下水に恵まれた京都では多種多様な野菜が生まれ、独自の漬物文化が育まれたといわれています。
その中でも三大京漬物といえば、千枚漬・すぐき漬け・しば漬けを指します。しば漬けは一年通して手に入れられますが、千枚漬とすぐき漬けが買えるのは冬のみです。

そんな旬を迎えた漬物を買い求めに、代表的な老舗店を訪ねました。

千枚漬発祥の味を一子相伝で繋ぐ「千枚漬本家 大藤」

京都の東西のメイン通り・四条通から麩屋町通を北に上がり、錦市場で有名な錦小路の手前に「大藤」はあります。
千枚漬は江戸時代の終わりごろ、京都御所で料理方を務めていた大黒屋藤三郎が考案したとされています。その大黒藤三郎が御所勤めを退き自ら千枚漬を売り出すにあたり、大黒屋の【大】と藤三郎の【藤】をとって屋号を定めたのが、今も続く「大藤」です。
くすんだ色味の漬物や塩漬が主流だった当時、上品な姿と繊細な味付けの千枚漬は宮中で喜ばれ、瞬く間に市中にも広まったそうです。

京都の千枚漬とは? 千枚漬作りは京都の冬の風物詩

千枚漬は、京野菜「聖護院かぶら」で作ります。
皮をむいて形を整えたら、特製のカンナで素早く薄切りにします。樽の中に広げて3日間塩漬けし、酢で洗った昆布を挟み込んでさらに3日漬け込めば完成です。
聖護院かぶらが収穫できる冬場のみに作られ、製造が始まると店先に出されるかぶらの皮に冬の訪れを感じます。

千枚漬の特徴は繊細な食感と昆布のとろみです。
日が浅くとろみの少ないハリハリとした食感から、日が経ち昆布のとろみが絡んだしんなり食感まで、7日ほどの短い賞味期間の間にも日々変化が楽しめます。
また、かぶらの白と壬生菜の緑のコントラストが美しいこともあり、お歳暮やお年賀などの贈答用にも重宝されています。

大藤の千枚漬は、砂糖、酢、食塩のみで漬けられています。
しっかりと旨味の出る上質な昆布を厳選して使うことで、シンプルな材料だけで作られたと思えないほど豊かなうまみの漬物に仕上がります。

上品な甘みと程よい酸味はお茶うけや箸休めにピッタリですが、私の好きな食べ方はご飯の上に広げて箸でくるみ、そのままパクリ!
冬の幸せな食卓です。

千枚漬本家 大藤

千枚漬本家 大藤本店と取り扱い店舗

京つけもの聖護院蕪 京都 大藤

価格:3,240円
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感想(2件)

300年の歴史を守る「御すぐき處 京都なり田」

「御すぐき處 京都なり田」は上賀茂神社のすぐ近くにあります。周辺は社家(神社に仕える氏族やその家)の町で、昔ながらの土塀が続く風情のある町並です。

すぐき漬けの歴史は古く、起源は安土桃山時代まで遡るといわれています。宮中や公家向けの贈答品や自家用として上賀茂神社の社家の屋敷内で栽培・加工されていたものが、明治以降上賀茂地域の農家に広がり、受け継がれてきました。

植物性乳酸菌「ラブレ菌」で注目を集めたすぐき漬けの作り方は?

原料となるすぐき菜は、11月から12月にかけて収穫されます。皮をむいて大きな樽に入れ、塩をたっぷりかけて一昼夜荒漬けします。
取り出して水洗いし、塩とともに樽に重ね入れ、「天秤押し」という独特な方法で重しをかけます。水がしっかり出たら40℃程度に暖められた「室」に入れ、1週間ほど熟成させれば完成です。昔は室がなかったので、漬け上がるのに5月くらいまでかかったそうです。

すぐき漬けの味に重要な役割を果たすのが乳酸菌です。室や樽の中に長年住み着いている乳酸菌が混ざり合い、その家独特の味を作り出すのだそう。
すぐき漬けから植物性乳酸菌「ラブレ菌」が発見されたということで、すぐき漬けを知ったという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

すぐき漬けの切り方は? すぐき漬けの美味しいいただきかた

すぐき漬けはかぶらの上部に葉がターバンのようにしっかりと巻きつけられています。
かぶらの部分は軽くすすいで5㎜程度にスライスします。葉の部分はしっかりすすいで水気をしぼり、細かく刻みましょう。

すぐき漬けは「酸茎漬」とも書く通り、奥深い味わいの酸味が特徴です。
塩だけで漬けているということで塩辛いかと思いきや、一般的なたくあんに比べて塩加減はマイルド。ほどよい歯切れが心地よく、まろやかな酸味と旨みの中にじんわりと甘味が感じられ、すぐき菜と塩だけでこんなに味わい深くなるのかと驚きます。

ご飯と一緒にいただくなら、鰹節をふって醤油を少々たらすのがおすすめです。すぐき漬けのまろやかな酸味が際立ち、食欲をそそります。
お茶漬けに添えたりチャーハンに入れてもおいしく、日常の食事を引き立ててくれる漬物です。

御すぐき處 京都なり田

御すぐき處 京都なり田オンラインショップ

千枚漬とすぐき漬け。どちらもかぶらの仲間の京野菜を使った冬が旬の漬物ですが、味もその歴史も大きく違います。
そのどちらもが今日までしっかりと受け継がれてきたことに、京都の人々の漬物へのこだわりを感じます。

京都の冬は底冷えがきつく過ごしづらいですが、美味しい漬物が食べられるということで少しだけ冬が好きになりました。

ABOUT ME
阿東いつ子
埼玉県出身。 おいしいものが大好きで、農業系の大学を卒業後、食品の研究開発、商品企画、販売と、食べ物から離れられず現在に至る。 結婚を機に京都市に移り住んだものの、いつまでたっても観光客気分が抜けません。