お土産

静岡市にある「石部屋」で昔ながらの「安倍川もち」と緑茶で心落ち着くひとときを

海にも山にも湖にも川にも恵まれた静岡県は、とにかくおみやげの種類が豊富! お茶やみかん、いちごやわさびなどの名産品だけでなく、それらを使ったスイーツまで幅広いのが特徴です。SAなどで見たことがあるおみやげを思い出してみても「こっこ」「うなぎパイ」「黒はんぺん」「わさび漬け」「バリ勝男クン。」「田子の月」「治一郎のバウムクーヘン」「安倍川もち」など、パッと思いつくだけでもかなりの数に及びます。

華やかで写真映えするスイーツもいいけれど、長年愛されてきた地元銘菓こそ現地で食べてみたいもの。今回は静岡みやげの定番「安倍川もち」をご紹介します。

東海道銘菓として広く知られる「安倍川もち」

静岡県を代表する銘菓「安倍川もち」」は、江戸時代に十返舎一九が書いた「東海道中膝栗毛」にも登場するきな粉をまぶした餅です。徳川家康が「安倍川もち」と命名したという説や、安倍川にある茶屋の名物として東海道を旅する人々の間で有名だったため「安倍川もち」と呼ばれるようになったという説があるそうです。

徳川家康が駿河を治めていた頃、金の採掘の検分に訪れた家康にきな粉をまぶした餅が献上されました。あまりのおいしさに製法を尋ねると「安倍川へ金山から産出した金の粉が流れるのをすくい上げ、餅にまぶしてつくるので「金粉餅(きんこもち)」と申します」と男は答えました。「金粉餅」は、約420年前の今川・武田のころから安倍山にあった金山で金が豊富に採れることを祈願して神前に供えられたとの言い伝えもあり、家康公はこの男をほめて褒美を与え、改めて「安倍川もち」と命名したと言われています。

「安倍川もち」の元祖だと考えられているのが、丸子(静岡市)に伝わる「五郎右衛門餅」です。家康公に餅を献上した男は、近世まで「亀屋」と呼ばれた安倍川もち屋でした。「五郎右衛門餅」には、この餅を好んで毎日のように江戸まで運ばせた姫君の話や、東海道を下る際には公家たちも必ず立ち寄って「五郎右衛門餅」を食べた話も残されています。その名を「安倍川もち」と変えてからも、参勤交代で安倍川を通る諸大名たちは必ず「亀屋」に立ち寄り家康公が命名した餅を食べたそうです。

安倍川畔の餅は、1つの盆にきな粉と餡の2種類を並べて盛り、その上に砂糖をかけて売られた高価なもの。白砂糖は徳川時代珍重され、安倍川もちの価値を一層高めたと言われています。餅をわさび醤油で食べる楽しみ方は、お酒好きの方に好まれていたそうです。

八代将軍である徳川吉宗も好んだという記述が残されており、徳川家との縁が非常に深い「安倍川もち」。明治維新の際には、西郷隆盛が安倍川の茶店で休憩しながら「安倍川もち」を食べていた姿も目撃されています。長い歴史の中で、後世に名を残した方々はもちろん東海道を旅する人々の疲れも「安倍川もち」が癒やしてきたのですね。

趣ある店内で「安倍川もち」を味わえる石部屋

静岡エリアの駅や売店では必ず販売している「安倍川もち」。おみやげ用を購入するたびに「できればお店で安倍川もちを食べられたらいいのに」とずっと思っていました。

日帰りで静岡への旅が決まった時、まっさきに調べたのが「安倍川もち」を店内で食べられるお店。そこで見つけたのが、静岡市街からもほど近い、安倍川手前の街道沿いにある「石部屋(せきべや)」です。創業は1804年(文化元年)、歴史を感じさせるお店の外観に自然と旅気分も盛り上がります。

「石部屋」には駐車場があるとのことで車で行ってみると、お店からご主人がわざわざ出てきてくれ、店舗横の駐車場ではなくお店の前に停めていいと案内してくれました。車は最大6台停められるそうですが、通路も狭めでちょっと停めにくそうな印象を受けました。お店の前に停めさせてもらえることを考えれば、車で行っても停められないということはなさそうです。

店内は趣のある雰囲気。時代劇などで見る江戸時代の茶店のイメージが目の前に広がり、ノスタルジックな気分にひたれます。店内は小上がりになった座敷の席と、テーブル席があります。店内飲食のメニューは「安倍川もち」「からみ餅」の2種類で、どちらも一人前800円です。「安倍川もち」にはお持ち帰り用もあり、二人前1,300円、三人前1,900円、四人前2,500円です。

注文を済ませて店内をじっくり見てみると、壁には著名人のメッセージが書かれた短冊が数多く飾られています。「あんなスターが!」「あの人は字も芸術的」など1枚ずつ眺めるのも楽しく贅沢な時間です。

素朴な見た目の「安倍川もち」「からみ餅」は絶品!

もち米100%、つきたてのお餅が使われている「安倍川もち」と「からみ餅」。「安倍川もち」は注文が入ってからお餅を湯煎し、桶に入ったきなこの中へひと口大より少し小さめにしたお餅を入れ、たっぷりとまぶしてお皿に盛ります。あんこも湯煎して3〜4cmほどにしたお餅にこしあんをつけてそれぞれ4個ずつお皿に乗せたら、仕上げにきな粉のお餅にたっぷりとお砂糖をかけて完成です。

「からみ餅」は湯煎してちぎったお餅がそのままお皿に乗せられています。別皿に添えられたわさび醤油をつけて食べるようです。

まずは「安倍川もち」からいただきます! きな粉の上にバッとかけられた砂糖、きれいな形に丸められてないお餅。このラフな感じを求めていました。ここでたった今作られたできたてほやほや感が素晴らしい。きな粉とあんのどちらから食べるか迷いつつ、あんから食べることにしました。素朴な見た目から受ける印象よりもずっと甘さ控えめで、上品ですっきりとしたこしあんの風味が広がります。餅はやわらかく、歯切れのよさがたまりません。

続いてきな粉へ箸を伸ばします。お砂糖がこれだけかけられているとどれだけ甘いのかドキドキしましたが、むしろこのお砂糖がちょうどいいと感じる絶妙加減。ふわっと鼻に抜けるきな粉の香りに後から甘さが追いかけてくるのがたまりません。

さて、お楽しみの「からみ餅」もいただきます。つるんとしたお餅を箸でつまみ、わさび醤油につけて口へ運びます。わさびの鮮烈な風味と爽やかな香りと醤油のまろやかで深い味わいがお餅の甘さを引き立てます。口の中で広がるそのおいしさに、心地よい混乱に襲われます。ぼんやりした頭でお茶をひと口飲んでみると、これまた驚くほどおいしい。「そうだ、ここはお茶処・静岡だった……」とおいしさの大渋滞にもう身をまかせるしかありません。

静岡県はお茶処だけでなく、わさびの産出額も全国1位です。静岡県でわさびの栽培が始まったのは今から400年前の江戸時代、石部屋からも近い静岡市葵区有東木の地で始まったと伝えられています。有東木の庄屋が駿府で隠居していた徳川家康公にわさびを献上したところ、あまりの香りと辛味を大絶賛し、門外不出になったという話も残っているのだとか。「からみ餅」にはおみやげ用はなく、店舗に来ないと味わえない逸品です。

「石部屋」の安倍川もちで旅行気分を盛りあげよう

「お昼を済ませてから時間がたっていないのにお餅を食べられるかな」などという心配はまったくいりませんでした。これが別腹! 

長い歴史を感じさせる石部屋の中で、ゆったりと味わう絶品の「安倍川もち」と「からみ餅」。旅に欠かせないおいしい名物を、ぜひ味わってみてください。

ABOUT ME
ひがのあや
東京都品川在住。小学生の2人の子供を育てながら、ファッション・グルメ・トラベル系のWEBライターとして取材・ライティング・リサーチ業務を行う。長いお休みには国内旅行で美味しいモノを食べ歩き、普段は時間があればアンテナショップやデパ地下を巡っている。